姉の婚約者
吸血鬼の弟子
「姉さん、別れな。」

 あれから数日、私は姉さんと顔を合わせるたびに同じことを言っている。

「なんなの、ゆり子。」

 御覧の通り、すでに心底うんざりされている。でも、私も負けていられない。吸血鬼がどうの以前に伊沢さんはおかしい人だ。そんな地雷と付き合うな。でも姉さんは聞く耳なんて持ちゃしない。風呂上がりの姉さんは牛乳をコップに入れると椅子に座って食卓に肘をついた。

「で?ゆり子はすぐるさんの何がそんなに気に食わないのよ?」

「姉さんだって、おかしいと思わないの?だって吸血鬼だってどう考えても……」

 姉がおかしそうな顔をした。

「吸血鬼っても普通だったでしょ?あんだけ普通の人と付き合えって家族総出で言ったくせにー!」

「いやいやいや!普通の人があんなこと言ってるほうがよっぽど怖いって」

「いいじゃない。私もこの年だし、いつまでも実家にいるのもね。お母さんだってお父さんだってしっかりしろってよく言うじゃない」

「しっかりした人のとこに嫁に行ってよ。」

「私、髪乾かしてくるね。」

 逃げるように姉さんは風呂場に行った。いやいや納得いかんぞ。

「ちょっと!姉さん?」

「あ、ゆり子。2000円あげるから買い物言ってきてくれない?」

「え?なんで私が?」

 いきなりなんだよもう!

「無職でおかしくなってる妹にバイトよ。余ったお金は好きに使っていいから。」

「自分でいきゃいいじゃない。」

「私、もうお風呂入ったもの。ね、お願い。」

「何が要るのよ?」

「iTunesカード1500円」

「キャリア決済でもしなさいよ。どうせ電子書籍でしょ?」

「嫌。いくら使ったかわかんなくなるもの。おつり使っていいから、ね?お願い!ゆり子も家の中ばっかりいたら運動不足になっちゃうよ」

 もう、どうしようもねえな。

「いいよ。お金ちょうだい。」

 歩きながら姉の話ちょっと考えよう。なんだか頭痛くなってきたな。私は差し出した手にいつまでも金が乗らないので姉さんの方を見ると姉さんは私に向かって拝んで見せた。

「立て替えといて?」

 ふざけんな!
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