【短編】記憶の香り
記憶〜忘れたい思い出〜
 俺はこの日をどれだけ待ち望んだのだろう。

 はやる気持ちを抑え、携帯電話のメモリーから恋人であるユリの名前を探しだし、番号を押した。

 呼び出しの電子音が止まり、通話状態になる。

「おかえ……」

 そう話し出そうとした俺は、考えもしなかった言葉を耳にした。



「おかけになった番号は、現在、使われておりません。
おかけになっ……」

 俺は間違えたのだと、電話をきって、もう一度番号を押す。

 それでも、聞こえてきたのは一定のテンポを守って話す、録音された女の声。

 この事態がどういうことか理解したくない俺を、この無感情で冷静極まりない声が、更に苛立たせた。

 この日、俺は何度も何度もこの声を聞いた。

 最低でも10回は聞いただろう。


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