雨が降る 黄昏時と夜のこと
出張のお土産だと私の大好物なバウムクーヘンを、この日の午前中、偶然給湯室で会った小沼くんから渡されたのだ。いつも出張ついでに社内の休憩スペースに置くお土産を買ってくる小沼くんは優しく、なんて出来た男だ。個人的に私にも買ってきてくれる小沼くんは本当に素晴らしい。
ただ……見られていたのだ。小沼くんを気に入っている先輩の女子社員に。
いつも秘密裏だったお土産手渡し現場を発見され、先輩のご機嫌を損ねてしまい、梅雨真っ只中の止まないどしゃ降りの雨の中郵便局と銀行に行かされた。因みに、それは今日絶対にやらなければいけない業務ではなく……。
そうして、テンプレ的に残業を押し付けられ。
特に帰ってすることもないし、周囲が静かで人の気配がないほうが個人的には作業が捗る。窓にあたる雨音がかき消されず響くなんて、社内ではなかなか体験できないことだ。単調な残業の内容も、別に嫌じゃない。
今日のここに至るまでのあれこれは、特に心を痛めるものではなかった。それは私が多少なりとも強くなったからかもしれない。何かあればそれなりに対処も出来るようになったし、そもそも、平気だとかもう無理とか、考えるまでもいかない出来事だ。
作業も終わり、パソコンの電源をオフにして机の上を整理する。そうして、伸びをして顔を上げたところ、正面にある窓ガラスに反射した社内の景色に、小沼くんの姿があった。