春雷

「高村先生、私も琴葉さんの事、大好きだから、気持ちはわかります」

なんとか車が塾に近付いた頃、由乃ちゃんが
呟いた。

「ゆのちゃん‥」

「私、あの事件の時、高村先生はきっと琴葉さんのこと、好きなんだろな、て、思ってました。高村先生だったら、パパはもう勝てないな、って


あの事件は春の話だ。
由乃ちゃんは、9か月も前からそんな事を考えていたなんて。
不甲斐ない‥。

「高村先生だったら、どんな女性だって、すぐ落とせるじゃん、なんで私の母親が好きになっちゃったんだろって、ちょっと恨んだりしました」

そうだよね‥。私もそう思ってた。

「でも、やっぱり高村先生、かっこいいよ。自分もケガして琴葉さん助けてくれたんだもん。
パパなら絶対しない」

うん、たしかに私もそう思う。

「パパは勝てないよ。女なら、どっちといた方が幸せなんだろって思ったら、家族の立場じゃなくて、同じ女としての立場なら、私、琴葉さんには高村先生選んでほしい」

「ゆのちゃん!そんな、何言ってるの!」

「だから先生!お願いがあります」

由乃ちゃんは私の言葉をさえぎって、後部座席の彼に向かい合った。


「琴葉さんを、連れていくなら‥‥私も、連れて行ってくれませんか‥‥?」



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