春雷
『由乃さん、もちろんです。実は、今、フランスの大学から教員の誘いがきてるんです。僕は
いずれ、そちらに行こうと思っています。ぜひ、お二人もご検討下さい!一緒に行きましょう!』

ああ‥思いだしても目眩がする。

これにはさすがの由乃ちゃんも目が点だった。

高村先生は見立てが良く、頭が良いのは明らかなのに謙虚で、先生や生徒にも評判がいい。
しかし、どうもそれだけではなさそうだ。

まともな意見が全く通用しない時がある。
つまり、ぶっ飛んでいるのだ。

一度怒鳴ってやりたい。


ふと、高速に掲げられてある
降り口の看板に目が行った。

私の家に続く降り口は次だ。
あと数キロ。

だけど、その次の降り口は
高村先生の家に続く。

「‥行って、怒鳴ってやろうかな‥」

それに、フランスなんて。

(先生、フランスに行っちゃうのか‥)

て、いや、しょんぼりしてる場合じゃない。

(いつ、行ってしまうんだろう‥)

いや、やめよう。そういう事考えるのはやめよう。


そうだ。
今日は夕飯も準備しなくていい。
学校では話せないこと、
思いっきりきちんと話そう!

突然訪問して、びっくりさせて、怒ってやるんだ。


(私なんかがいなくても
どうせ、向こうでモテモテだろうし、
私のことなんて、気の迷いで終わるんだ。
きっと‥。)

胸が痛いから
それ以上考えるのはやめた。

怒るんだ!
怒れ!私!!

車を走らせながら雑念に振り回され、
我が家は、どんどん遠のいた。

彼の家まで、もう少しだ。


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