同期以上、彼氏未満
「うーん、うまく言えないけど、裕和とは考え方が違うって感じたからかな。


裕和とは背中合わせで立ってて、昴とは隣どうしに立って同じ方向を見てるって感じ」


「ベクトルが違うってことか」


「もし、大阪にいる時に結婚してたら、今ごろそれなりに幸せだった気もするけど」


「長すぎたのかもな、俺たち」


「私のワガママで、裕和を振り回して、ごめんなさい」


「いいよ、もう。


浦野と幸せになれよ」


お待たせいたしました、とタイミングをはかったように食前酒が運ばれ、あとは思い出話ばかりしていた。


私たちにとっては、無駄なことはひとつもなかった。


楽しかったことも、ケンカしたことも、旅行したことも、家でゴロゴロしたことも。


ふたりで過ごした時間が積み重なり、今日を迎え、これからは別々の方向へ歩いていくんだ。


コーヒーもデザートもなくなり、


「そろそろ帰るか」


裕和は伝票を持って立ち上がった。


「私がおごるよ」


「いいよ、最後くらい俺にカッコつけさせろよ」


「いつもごちそうしてくれてたのに?」


「俺の方が稼ぎいいからな」


「ごちそうさま」


店の外に出ると、ふわっと優しい風が吹いてきた。


「じゃあな」


「今までありがとう」


カギを差し出した私に、裕和は困ったように手を出した。


「また、会社で」


「うん」


お互い背を向けて歩き出した。


私は振り向かず、昴の元へ急いだ。


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