はつ恋の君をさがしてる
前に進む
「見ちゃった!今のが噂の婚約者さん?」

高嶺さんの車を見送っていたら急に後ろから声をかけられて飛び上がるくらいに驚いた。
振り返ると立っていたのは芽衣子だ。
うわぁ……一番厄介なのに見られちゃったなぁ……
そう思ったのがまた顔に出ていたらしい。
芽衣子は面白そうにニヤニヤすると私の腕に自分の腕をからめて私を引きずるように歩き始めた。

エントランスロビーの片隅にある掲示板前に人集りができていて、芽衣子が立ち止まるので私もつられて足を止めた。
もしかしたら?そう思って近づくと、やはり人事異動の告示だった。

芽衣子に言わなきゃ!そう思ったがすでに遅い……
じっと掲示板を見ていた芽衣子が、信じられないと言った感じに目を見開いて私を振り返る。

「これ……どう言うことか説明してくれるよね?」

芽衣子に詰め寄られてガクガクと首を振ることしかできない。

芽衣子と私は足早に更衣室へ向かった。
更衣室は幸いなことにまだ無人だった。

制服に着替えながらどう説明するのがベストか考える。

先に着替えた芽衣子が物言いたげに視線を向けるので諦めて口を開く。
「人事異動は私も昨日副社長から内示を受けたばかりなの。総務課の人材育成担当の主任さんがもうすぐ産休で、後任って言うか仕事を引き継げる人が必要だからって……」
「そうなんだ……でも。なんで鈴加なの?それもこんな中途半端な時期に?」
「それは……」
どこまで話したら良いのかがわからなくて躊躇する。
口をつぐんだ私に芽衣子が眉を寄せる。

「澤田さんが欲しいって、かなり前から茜に頼まれていたのよ……」
そう言ってロッカーのかげから現れたのは須藤さんだった。
「澤田さんがいつも勉強熱心で、努力家だから人材育成担当でぜひ欲しい!って……主任の逢坂 茜は私の親友なの。私が渋っていたからどうやら副社長に直談判したみたいで……ごめんなさいね澤田さん。」
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