雨夜の星に、願いひとつ

「もう2年も前になるんだねえ」


しみじみとつぶやく母の横顔を見て、わたしの胸に暗い影が差した。

それは母への後ろめたさ。

たとえば中学生のころ憧れの先輩とファーストキスをした日とか、高校生のころ友達の家に泊まりに行くと嘘をついて彼氏と遊んだ夜とか、親に対して後ろめたい気持ちになったことは何度もあった。

だけど今感じているのは、あの頃のものとはまったく次元が違う。

今、わたしが置かれている状況を母が知ったらどう思うだろう。同じ大人として、同じ女として、きっと心底軽蔑するはずだ。


「ねえ夢希」

「ん?」

「こうして身の回りのことをしてくれるのはありがたいけど、そろそろ帰った方がいいんじゃないの? もう何日も賢二郎さんをひとりにさせてるでしょ?」

「あ……うん」


実家に帰ってきて今日で5日が経つ。母の体調も落ち着いてきたし、いつまでもここにいる必要はないんだろう。だけど。


『この仕事が成功したら……今度こそ夢希と結婚するって決めてたんだ』


あの夜に初めて知った賢二郎の気持ちにどう応えればいいのか、どんな選択をすればいいのかわからなくて、わたしはずるずると逃げ続けているのだ。
そして、柴ちゃんからも逃げている。


「……まあ、大丈夫だよ。賢二郎はひとり暮らしが長かったから、家事に慣れてるし」


歯切れ悪く返事したわたしは、それ以上突っ込まれないよう早めにお見舞いを切り上げた。



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