暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
幹部side

詩が星姫になって2週間が経った

姫として認められてから

詩は倉庫で寝泊まりする奴らに

飯の用意をしてくれる

寝泊まりの理由はみんなそれぞれだ

家族が居ない者、見捨てられた者

逆に見捨てた者…

みんな何かしらを抱えていて

家庭の味に飢えてるところがある

だから、詩がご飯を作ると

言い出した時は驚きと喜びの半々

買い出しに任命された錬と奏

下っ端数十人を従えて出て行って

戻って来たと思ったら

ものすごい勢いで手際良く大量の

おかずをテーブルに並べた

その品数、なんと数十種類で

量も半端なかった

しかもおかわりまであるときた!

二階から一階へ続く階段の踊り場から

幹部全員で観察だ

詩は自分のことを一切話さない

聞いたら答えてくれるんだろうが

それで詩から今、俺達に向けてくれる

笑顔を見せてくれなくなったらと思うと

聞けないでいるんだ…

ってか、それにしても手際がいい

コンロの火加減を見てるかと思ったら

次の瞬間には野菜や肉を切って

下ごしらえをして

あんな小さな身体でちょこちょこと

動く姿は小動物そのものだ

可愛すぎると、ここにいる全員が

思ってるだろう…

錬は頭の後ろで腕を組みながら言う

「あの手際の良さは最早料理の達人だな」

奈留は目をキラキラさせて

「本当にすごいね〜!
それにどれも美味しそう〜!」

子供な発言をかます

「誰かの手作りのご飯なんて
いつ振りだろう…」

どこか懐かしそうに切ない目で

詩を見つめる奏

「…(コク)」

冬は黙って頷くだけだけど…

奏の言うように誰かが作る温かい料理を

食べるなんて、いつ振りだろうな…

思い出せない程、遠い昔のような

気がする

みんなそれぞれ思うところがあるけど

今は下で料理を作ってくれてる詩に

釘付けだ

可愛くて、優しくて、純粋で、真っ直ぐ

他人の為に心を尽くす姿は

俺達の目も心も惹きつけて止まない

そして何より笑顔が一番だ

あの笑顔があるから

俺達は守りたいと思うし

強くなりたいと思えるんだろうな…

今までだって強くなるための努力は

十分やってきたと自負してるが

詩と出逢ってからの俺達は

更にその想いが強くなった気がする

俺達を照らし導いてくれる存在…

真綿で包まれるみたいな安心感…

元々俺達星竜は仲が良くて

抗争以外はみんな幹部も下っ端も

関係ないような間柄だが

詩という存在が星竜を更に絆の固い

族へと変化させている

詩…俺は、俺達は

お前との出逢いに感謝してる

ふと視線を上げた詩は俺達に向けて

手で丸を作って笑った

料理が完成したようだ

ありがとな、詩

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