暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
詩side

幹部室で皆んなでワイワイしていると

扉が開き、入ってきたのは北斗1人

心なしか部屋の空気がピリピリしてる気がする

それを裂くように北斗が話し出した

「穂花の手当て、奏やってくんねぇか。
あと、落ち着くまで寝泊まりさせるのは
下っ端の空き部屋にする」

北斗の言葉を聞いて皆んなの顔が歪んで見えた

「北斗、穂花の手当ては勿論するけど…
寝泊まりさせるのは僕は反対だよ。
いくら幼馴染だとしても、穂花も子供じゃないんだ
学校の友達とかもいるでしょ?
それに星竜の出入りを許せば必然的に穂花も
守る対象になる。
僕達の守るべき対象は姫である詩ちゃん…
ただ1人だよ。
いくら総長の言葉でも僕は従わないから」

奏の言葉に他の皆んなも大きく頷いた

「僕も反対だよ。
いくら幼馴染だとしても、僕らは暴走族。
守る対象が増えれば増えるほど危険は増すんだ。
それに、言っちゃあ悪いけどあの子のせいで
詩ちゃんを悲しませるなら許さないからね!」

力の籠もった瞳で北斗に話す奈留は

錬に抱き抱えられたままの私にニコニコと

笑顔を見せて北斗の視線から私を守るように

背中に隠した

冬も立ち上がり私の前で胡座をかいて座り頷いた

「俺も奏や奈留と同じ気持ちだぜ。
姫として迎えたのは北斗だろ?
なら誰を1番に守らないといけねぇのか
考えなくても分かるはずだよな。
なのに、北斗は詩を泣かせたんだ…理由はどうであれな。
俺は詩には笑顔でいて欲しい。
それを奪う事はここに居るヤツは許さねぇよ」

錬の硬い声色と

皆んなからの言葉を聞いた北斗は

今どんな顔してるんだろう?

抱き抱えられたままの私からは見えないけど

優しい北斗は悩んでるんじゃないかな…

だって小さな頃からの幼馴染なんでしょ?

それに暴力を振るわれてるのを聞いて

ほっとけるわけないもん

私にとって孤児院がそうであったように

穂花さんにとっても北斗や奏は助けて貰える

大切な存在だと思うの

私みたいに声を失ってからじゃ遅い

それくらい親から受ける暴力はとても

辛くて悲しいこと…

皆んなが私を想ってくれるのはすごく嬉しいけど

同じ経験をした私には、その辛さが分かるから

ほっておくなんて出来ないよ

暴走族である星竜にとってリスクがあるのも

分かるけど穂花さんがそのリスクを承知で

ここに居たいなら、そうしてあげたい

私の過去からの経験を踏まえて言葉を綴る

≪皆んなが私を想ってくれてるだけで嬉しい。
だけど、私も穂花さんと同じ経験をしてるから
辛さは分かるの。
声を失ってしまったのも親の暴力が
原因の1つだから
私みたいになる前に助けてあげたい。
それに、北斗や奏にとって大切な人なら
私にとっても大切な人にかわりないの。
穂花さんがリスクを承知でここに居たいなら
私は賛成だよ!
ただ、ここに逃げ込むだけじゃ解決にはならない。
気持ちが落ち着いても戻ればまた繰り返される可能性は高いの、残念ながら。
だから、安心してお家に帰れるように
穂花さんが居る間に策を練らなくちゃ!≫

皆んなの気持ちを無下にしてるみたいで

すごく申し訳ないけど…

私はメモを錬に渡した

そして目を通した錬、奈留、冬、奏は

今にも泣き出しそうな表情を浮かべて

次の瞬間抱きついてきた!

わわわっ!!く、苦しい〜〜!!

もがく私に気が付いて離れてくれたけど

やっぱりその表情は暗くて切ない…

そんな顔じゃなくて笑顔でいて欲しいのにな〜

皆んなの顔を1つずつ見つめて私は

笑顔で唇を動かした

『だいじょうぶ』

私の顔を見てぎこちないけど少しだけ

表情を緩めた皆んなに、またニッコリ笑ってみせた

そして、私から北斗へ視線を移した奏は

フゥーっとひと息ついてから話し始めた

「僕等はまだ穂花の事、反対だけど…
姫である詩ちゃんは穂花の為になるなら
賛成だそうだよ。
だけど、1つ言っておく。
穂花にはここに居る間はこの部屋にも
勿論、総長室にも出入り禁止で
下っ端の皆んなと同じ部屋に居てもらうから。
それと、ここに居ることのリスクも承知でいることが条件だよ。
僕等は詩ちゃんが第1優先だってことも
伝えるからね」

そう言って救急箱を持って幹部室から出て行った

奏が出て行った扉から視線を外して

息を吐いた北斗は私を見つめながら

「詩、すまない…」

と、切なそうに瞳を揺らした

そんな北斗に私は笑顔で首を振った

私が泣いたりなんかしちゃったから

こんな事になったんだよね…ごめんね……

だけど、そんな顔しないで欲しいの

北斗にも皆んなにも笑顔でいて欲しいから

私の想いは今この瞬間消さなくちゃね

初めての恋が北斗、貴方で良かった…

ありがとう……

これからは穂花さんを守ってあげてね

そしたら私はここから消えるから

それまでは精一杯星姫として頑張るね!
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