暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜
涼風side

「詩ちゃんと出会ったのは、私達がまだ大学1年生で
詩ちゃんはまだ9歳だった……」

私はあの頃の自分達と詩ちゃんとの出会いを

思い浮かべていた

私と絵留と日向の3人は色々なボランティアに

参加するうちに度々顔を合わせた事がきっかけで

仲良くなっていった

そんな私達がボランティアで訪れた孤児院に

9歳の金髪碧眼の詩ちゃんに出会った

そこにいる子達は、それぞれに何かを抱えて

そこで暮らしている子達だったけど

詩ちゃんはその中でも、当時はかなり異質の

存在として、そこに居た

容姿の所為なのか、それとも声を失い

感情も表情もない、まるで人形のようだったからか

孤児院の他の子達から一線を引かれてた

それが気になって3人で思ったことは、ただひとつ…

この子に笑顔を取り戻させてあげたいって事だった

それからの私達の行動は早かったと思う

園長先生に詩ちゃんの話を詳しく教えて貰った

詩ちゃんはお母さんがアメリカ人で

お父さんが日本人のハーフとして生まれた

そのお母さんは詩ちゃんが4歳の頃に

交通事故で亡くなった

その理由が余所見運転する車から、

詩ちゃんを庇って帰らぬ人になったらしい

その後から、お父さんによる暴力と罵声を

受け続けて、心に傷を負ったストレスによって

声も感情も表情も失くしてしまった

隣人からの通報で孤児院に保護されたのは

お母さんを亡くしてから3年後の事だったらしい

7歳になった詩ちゃんは暴力や罵声を浴びせられても

お父さんから離れる事を嫌がって

孤児院に保護される事を頑なに拒否していた

身体中に無数の傷や痣、声を失っても

お父さんと離れる事を拒み、首を縦には振らなかった

でもお父さんが詩ちゃんを拒絶した

『大切な人を失うのは耐えられない』と……

そう答えたお父さんのその言葉の真意は

事故で亡くなった妻と、自分自身で傷付けて

しまった娘をいつか死に追いやる可能性を

感じたからかもしれない…

涙を流し、そう話したお父さんを

詩ちゃんはジッと見つめて、小さく頷いたという

その当時の詩ちゃんの気持ちを高校生になる前に

打ち明けてくれた時、私達は涙が溢れ

心を鷲掴まれたように苦しかった

≪私のせいでママを亡くして
パパは凄く苦しくて仕方なかったと思う。
だけど、その苦しみをどこにもぶつけられなくて
気持ちの行き場に必死にもがいてた。
結果的に私に暴力を振るうことによって
自身を保ってたのかもしれない…

私もママを死なせた罪を背負いきれなくて
パパからの暴力で償おうとしてた。
決して消える事はない罪を傷として身体に残して
刻み付けて貰いたかった……
パパの愛する人を奪った罪人として。

お互いに苦しみから逃げた結果だったんだと思う

パパは暴力で、私はそれを受け入れて傷を刻む
それが間違った方法だって気付いたのは
パパの方が先だった。
私はパパに『大切な人を失いたくない』って
泣きながら言われて初めて気付いたの。
私が罰として受け入れてきた行為は
ママを失ったパパを更に追い詰めるだけの
苦しめるだけの行為だったんだって……
だからパパが私を突き放したのは
私に対する愛情のひとつだって思ったんだ。
だから声を失っても最後にそれが分かって
凄く嬉しかったの!≫

そう打ち明けてくれた時の詩ちゃんは

私達が望んでた綺麗な笑顔だった

「そうだったね……
それを聞いて、詩ちゃんは本当に優しい子だなぁって思ったもん。
例えどんな理由があったとしても親から暴力を
受けて、そんな風には思えない。
自分が受けた暴力で傷付けられても
傷付けたお父さんを苦しめてたんだって思える
詩ちゃんは優しいだけじゃなくて、凄く強い…
さすが、私の天使よね〜!」

「そうよね……
本当に天使みたい。
っていうか、聖母マリアよ!」

熱く天使かマリアかで白熱討論する私と絵留に

水を差したのは、奏だった

「詩ちゃんが傷だらけの人を放っておけないのは
そういう過去があったからなんだね……
そんな辛い事があったのに誰を恨むでもなく
自分を責めるなんて。
器が大き過ぎて逆に心配になるね。
自分の気持ちを秘めて常に周りには惜しみなく
優しさや温かさをくれるから……
今回の事もきっと穂花の事を思って
行動したんだろうね」

口元に笑みを浮かべているけど

瞳は悲しみが滲む奏を見て、私も切なくなる

「そうね……きっとそうだと思うわ。
同じ境遇の穂花を思って離れる事を決めたのよ。
なのに、自作自演って!!
その事にうすうす気付いてた私と確信してた絵留は
詩ちゃんの事があるから分かったってのもある。
だけど!北斗!!
あんたは幼馴染のくせして、そんな事にも
気付かないうえに詩ちゃんを泣かせて!!
それでも族のトップなのっ!?
あんた以外の此処に居る奴は気付いてたわよ!
ホント情けない!
あんたに詩ちゃんはもったいないわ!」

興奮する私を優しく包み込むのは日向

「涼風、落ち着いて。
怒りたいのは分かるけど、話はまだ途中だよ。
僕達が見てきた詩ちゃんの辛い過去はまだある……
とにかく涼風は一旦クールダウンして」

日向に言われて私もそうだなって思うから

絵留にバトンタッチした

「涼風の代わりに私が詩ちゃんの過去の話の続きを
話すね!
あれは詩ちゃんが何歳位の時だったかなぁ?
私達と出会って少しだけ表情を浮かべられるように
なった頃だから……12歳?だったかなぁ?
ねぇ、ひーくん」

「そうだね、ちょうど六年生の時だったかなぁ。
3年かけてやっと表情を浮かべられるように
なったのに……
子供はたまに残酷だからね」

絵留と日向、そして私が一様に同じ表情を浮かべ

暗くなった時……

可愛らしい男の子が声を発した

「お父さんから暴力を受けてただけでも辛いのに
まだ詩ちゃんは辛い思いをしたの?
その事が今回の件に関係あるって思うのは
僕だけ?」

可愛らしい顔立ちで眉間に皺を作る子は……

「あなた、名前は?」

私の言葉に真剣な表情を浮かべながら

答えてくれた

「僕は、藤吉奈留っていいます!」

この子は見た目が可愛らしいだけの子じゃない

これから話すことと今回の件が密接に関係してる事

勘付いてるわね……さすが全国ナンバー1の幹部ね

「では、私がその質問に答えるわね!
奈留くんの言う通り、今回の件が密接に関係してる
詩ちゃんは……」










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