Smile  Again  〜本当の気持ち〜
それからまた、日にちが過ぎ、11月もそろそろ半ばに差し掛かかろうとしていた。


ある朝、俺が教室に入ると、由夏が水木相手に、大はしゃぎしている。


「11月22日、松本省吾、母校で凱旋講演、イエィ!」


そうか、とうとう発表されたのか。俺は大興奮の由夏から視線を外すと席についた。


松本先輩が校長の招きで、来校することになりそうだということは、野球部の人間は、既に聞いていた。由夏に教えてやったら、喜ぶだろうとは思ったけど、俺は結局黙っていた。今みたいなあいつの姿を見たくなかったから。


それにしても、ルーキーイヤーの松本さんの活躍は、スゲェとしか言いようがなかった。高卒で、開幕からレギュラーで出ただけでも凄いのに、とうとう途中からは3番バッターに昇格。チームの優勝に大きく貢献して、新人王を獲得。


俺は凄い人と一緒に野球をやってたんだなと、改めて思わざるを得なかった。


1時間目が終わった後、俺は白鳥さんに声を掛けた。白鳥さんとしては、在校生として、松本さんを迎えるというのは正直複雑なんじゃないかと思う。


「アイツに会ったら、敬語かな?なってったって俺後輩だもんな。『先輩、お久しぶりです』って。」


冗談めかして、こんなことを言ってる先輩に、珍しく、由夏が近づいて来た。


「先輩、松本先輩が来たら、花束贈呈とかあるんですかね?」


「さぁ、俺に聞かれても困るけど、あるかもな。」


「それって、私出来ませんか?」


はい?いきなりこいつ、なに言い出してるんだ?俺だけじゃなく、その場にいた先輩も沖田も、更に先輩の横の席だから、俺達の会話を聞くとはなしに聞いていた水木も思わず、由夏の顔を見つめてしまったが、由夏の表情は真剣そのもの。


「バカか、そんなの生徒会の仕事だろ。確か今の生徒会長、2年の女子だろ?そいつがやるに決まってるじゃねぇか。」


とっさにそう言った俺をキッと睨んだ由夏は


「あんたに聞いてないよ。」


と一言。いや、俺の言い方もちょっとキツかったかもしれないけど、そんなムキになって言い返さなくてもさ・・・。由夏の剣幕に、俺はとりあえず引っ込む。


「山上先生に話してもらえませんか、私がやりたがってるって。」


こいつ、立候補する気かよ、俺が唖然としてると


「でも、それってゴーさんが決めることじゃないだろうし。」


白鳥さんも困惑の体。


「わかってます。」


由夏は引かない。


「それに、そんなの、自薦他薦にしたら、収拾がつかなくなっちゃうよ。」


沖田がたしなめるようにそう言ったのを抑えるように白鳥さんは


「わかったよ、とにかく昼休みにゴーさんのとこに行ってみよう。それ以上のことは出来ないけど。」


と答える。


「ありがとうございます。」


その先輩の返事に嬉しそうに頭を下げる由夏。


「岩武は松本の大ファンなんだもんな。」


えっ、先輩それ知ってるの?驚く俺に構わず


「はい、とにかく自分の気持ちは口に出さなきゃ、誰にも伝わりませんから。」


と答えた由夏は、意気揚々と席に戻って行った。
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