Smile  Again  〜本当の気持ち〜
大阪に入った俺達は、来たる大会に備えて、練習を続けていた。組み合わせ抽選会が終わり、開会式のリハーサルも終わった。


いよいよ明日は開会式、宿舎から少し離れたグラウンドで、俺達は軽めの練習をしていた。俺は同じキャッチャーの道原とキャッチボールをしていたが、


「おい、ツカ。」


と白鳥さんが声を掛けてきた。


「はい。」


「軽く投げておきたいんだ。受けてくれるか。」


「わかりました。」


抽選の結果、明協は3日目の第2試合が初戦と決まっていた。県大会の決勝は先発完投した先輩だが、今度の試合はまた、リリーフに回る予定で、今日は軽めの投球で十分だろう。俺は頷いて、準備をした。


「お願いします。」


腰を下ろして、そう声を掛けた俺に頷くと、先輩が振りかぶって第1球目を投げ・・・ようとした時だ。


「うっ。」


うめき声が聞こえたかと思ったら、いきなり白鳥さんが右肩を抑えてしゃがみこんでしまった。


「白鳥さん!」


俺は慌てて、白鳥さんに駆け寄る。


「どうしたんですか?」


「なんでもない、心配するな。」


と先輩は言うが、顔は苦痛に歪み、立ち上がることも出来ない。


「おい、すぐに監督かキャプテンを。」


「はい。」


たまたま近くにいたマネージャーの白石を走らせる。すぐに監督とチーフマネージャーのみどりさんがとんできた。


「白鳥くん!」


「大丈夫か?」


が、状況を見て、顔色が変わる2人。


「すぐに病院に連れて行く。木本、タクシーの手配だ。」


「監督、本当に大丈夫です。」


「大丈夫なわけないでしょ!」


押し止めようとする白鳥さんを、普段の優しさに似合わず、珍しく一喝すると、みどりさんは駆け出す。


「先輩、氷です。」


「すまん。」


戻って来た白石の差し出す氷袋を、自分で受け取ると、白鳥さんは肩に当てる。


(まさか、ここに来て、右肩痛が再発したのか?)


だとしたら、まさしく緊急事態だった。
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