人魚姫

 可能性はゼロではない。

 だって町医者は言っていたではないか。

 過去に人魚と人間は何度も恋に落ちてきたと。

 実際に町医者は自分が人魚になるための薬まで作り出したのだ。

 琉海は布団から這い出すと月明かりをたよりに自分のバックの中をあさった。

「薬、薬、ちゃんと持ってるよね」

 指先に冷たいガラス瓶が当たる。

「あった」

 墨のように真っ黒な液体が瓶の中で息を潜めている。

 これがあれば、あとは……。

 琉海は小瓶を握りしめた。

 なんとしてでも陸の王子を探さし出さなければ。

 せっかっく大冴の気持ちが自分に向いているのに、大冴が人魚になれる薬もここにあるのに。

 死んでしまってはもともこもない。

 絶対に陸の王子を見つけ出さないといけない。

 そして、その胸を剣で突くのだ。

「恋は残酷だね」

 突然寝ていると思ったむうちゃんがしゃべった。

 琉海は急いで小瓶をバックの中にしまう。

 むうちゃんを見ると目は閉じたまま口だけが動いている。

「こっちで笑えば誰かが泣く」

「む、むうちゃん?」

 琉海はそろそろとむうちゃんに這い寄り顔をのぞき込む。

 もごもごと動く口からは微かに寝息が漏れてくる。

「なんだ寝言か」

 琉海は自分の布団に戻るとカーテンの隙間から見える月を見上げた。

 雲の多い空の満月だった。

 雲に隠れたり顔を出したりする月を見ているうちに琉海はいつの間にか眠りに落ちていった。




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