人魚姫
琉海は部屋の片隅で両足を抱えてうずくまっていた。

 もう何時間もそうしている。

 むうちゃんが帰ってくるまでにまだ当分時間があった。

 琉海は大冴に嫌われ、憎まれる方法を考えていた。

 答えは簡単に出た。

 自分は人間でない生き物だと、そして大冴の大事な律を見殺しにしたのは自分だと言えばいいのだ。

 律のことを言わなくても鱗が浮き上がった自分の姿を見せれば、腰を抜かして驚くだろう。

 大冴には1度人魚だった時の姿を見られているが、人魚の姿ならばいざ知らず、体は人間で鱗だらけの琉海を気持ち悪いと思うだろう。

 そうだ、未來のことも話そう。

 そして自分が未來を殺すつもりであると言おう。

 あたしは大冴が好きでそのために律を見殺しにして、陸の王子である未來も殺して、大冴と2人幸せになろうとする、自分のことしか考えていない人間ではない化け物なのだ。

 琉海はそう考え、それが全部嘘でないことに気づいて自虐的に笑った。

 大冴に抱きしめられたときの感覚が今でも体に残っている。

 断ち切るのだ。全て。

 大冴のために。

 大冴は陸の王子ではないが、大冴こそが琉海にとっての陸の王子だった。

 ずっと昔、琉海を釣り糸から助けてくれた大冴。

 大冴の後ろの眩しい太陽。

 もしかしたら琉海はあの時から大冴に恋をし始めていたのかも知れない。

 琉海の知らない深い琉海の心のどこかで、あの人間が陸の王子だったら、と願っていたのかも知れない。

 琉海は懸命に涙が出そうになるのをこらえた。

 泣きたくはなかった。

 泣くと決意が揺らいででしまいそうで怖かった。


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