人魚姫
意外だった。

 大冴はまだ琉海のために人魚になってくれるつもりがあるのか。

「大冴、まだ本気で人魚になってくれるつもりなの?だって大冴はやっぱり律のことが」

「好きってか?」

 琉海はうなずいた。

 大冴はそんな琉海をじっと見つめた。

「好きだよ、律を、今でも」

 琉海の胸がぎゅっと痛む。

「でも、律はもう死んだ。そしておまえは生きてる」

 パチン、とストーブの中で薪が弾ける音がする。

「このタイミングで律の体が戻ってきたっていうのは、律が俺にさよならを言いに来たんだと思う。それに海での生活もなかなか興味深そうだし」

「そのことだけど」

 琉海がずっと人間でいられる方法があると言うと大冴はやはりほっとした顔をした。

「その海男って奴に1度会ってみたいな」

 うん、と琉海は相槌を打ちながら、大冴や未來の前からいつも姿を消してしまう海男を思った。

「そいつが助かる方法はないのか?」

 そうだ、琉海も大冴も助かり、海男だけがひとりで死んでいくなんてこと、自分は耐えられるのだろうか。

 琉海は前に海男が言っていたことを思い出した。

「ある、1つだけあるって言ってた。でもそれは教えられないって言ってた」

「なんで教えられねぇんだよ」

「分かんないよ、あたしだって」

 大冴は胸の前で腕を組む。

「あの爺さん、人間が人魚になる薬を作り出したんだろ、なんか他にも作れるんじゃねぇか」

 琉海もそう思ったが、そうだったらもうすでに作っているはずだ。

 深海の魔女だったら方法を知っているかも知れない、そう思った時大冴と目が合った。

「深海の魔女」

 琉海と大冴は同時に言った。


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