人魚姫
「ならば方法はありません。あの人魚の男は死ぬまでです。そして琉海もあなたも」

「ちょ、ちょ、ちょっと待てよなんで琉海が死ぬんだ」

 琉海は混乱した。

 なぜ自分が死ぬのだ?

 陸の王子と結ばれなければ自分は死ぬ。

 死なないためには陸の王子を殺すこと。

 そして陸の王子である真人はもうこの世にはいない。

「深海の魔女、陸の王子はすでに死んでるんじゃないの?初めて触れた時に火花が散って、首の後ろに星型のアザのある陸の王子は、もう死んでしまっているんでしょ?」

 深海の魔女は黙って琉海を見つめた。

 波の音が押し寄せては消え、また押し寄せては消える。

「陸の王子は生きてますよ」

 だから短剣を預けたと言ったでしょう、と深海の魔女は低い声で言った。

 陸の王子は死んでいない?

 大冴と琉海は顔を見合わせた。

 真人は死んでいない?いや、それとも真人は陸の王子じゃない?

「おい、その陸の王子とやらはどこのどいつなんだよ、今そいつはどこにいるんだよ」

「それは教えられません。琉海が自分で探し出さないといけないのです。そしてまた」

 深海の魔女は一旦口をつぐんだ。

 何か迷っているようだった。

「今回の陸の王子は自ら自分が王子であると名乗ることが許されていません。琉海、あなたが王子を見つけないといけないのです。わたしが話せるのはここまでです」

 そう言うと深海の魔女は海の中に姿を消した。

「おい!待てよ!」

 深海の魔女に続いて姉たちも次々と海に潜っていく。

 最後の姉は心配そうに琉海たちを何度も振り返っていたが、他の姉に促され渋々海の中に身を沈めた。

「ちっ、なんだよ」

 大冴は足で砂を蹴った。

「陸の王子がまだ生きてるってどういうことだよ、このままじゃみんな」

「大冴ごめん」

「あやまんなよ」

「大冴ごめん」

 大冴は琉海を抱きしめた。



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