蜜月は始まらない
真向かいで、華乃がクエスチョンマークをいっぱいに浮かべた表情をしている。

そこでようやく俺は、どうやらふたりの間に見過ごせない齟齬があるらしいことに気づいた。

……まさかとは、思うけど。



「華乃。俺にこの店を教えてくれた人は、男性だ」



確認のつもりでそう伝えると、彼女は目を丸くする。



「うそ、だって『ヒトミさん』って」

「ヒトミさんは苗字だ。“人”を“見”るという漢字の」

「えっ、そ、そうだったんだ……」



自らの勘違いを恥じるように赤面し、華乃はうつむいてしまった。

熱くなっていそうなその頬に両手をあてているのを見て、俺の中にはムクムクと歓喜がわき起こる。

もしかして、彼女は……俺が女性からこの店のことを聞いたと思って、嫉妬心を覚えたのだろうか。

そうだとしたら、うれしい。少なくとも俺は華乃にとって、友達以上の男に見られているのか?

道のりは長いと思っていたけれど、もしかしたら、自分が考える以上のスピードで距離は縮まっているのかもしれない。

俺は浮かれた気分を隠しきれないまま、デセールのあとのコーヒーを味わうのだった。
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