蜜月は始まらない
その後ふたりでテーブルを囲み、朝食をとった。

遠征に出かける彼を見送るため、私もあとについて玄関へと向かう。



「いろいろ、気をつけて。がんばってね」



今回の遠征先は九州だ。今夜からビジターで3連戦のあと、またホームに戻ってくる。

私はいつものように、シンプルだけどとびきり想いを込めて彼に声をかけた。



「うん。華乃も、俺がいない間気をつけろよ」



そして錫也くんも、同じようにもうすっかり聞きなれた言葉をくれる。

だけど今日はここで、彼が普段と違う様子をみせた。

今までならこのあと背を向けるところなのに、なぜか錫也くんは、じっと私を見つめてきたのだ。



「……華乃」



ささやくように名前を呼ばれ、心臓がはねる。



「遠征から、帰ってきたら──大事な話が、ある」



表情だけじゃなく、声音もどことなく硬くて、錫也くんの真剣さが伝わった。

その雰囲気に気圧され、一瞬息をするのも忘れてしまったけれどなんとかうなずく。
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