蜜月は始まらない
『まず、このたびは僕の個人的なことでお騒がせしてしまってすみません。けれど、ここでハッキリと言っておきますが、一部の週刊誌にあった熱愛報道は事実ではありません』



ますますざわざわと揺れる場内。

錫也くんは構わずさらに続ける。




『お相手として名前が上がってしまっていた方には、たいへん申し訳なく思っています。それから僕も、チームメイトにはブーイングされるしものすごーく困っています』



いつもの真面目くさった顔で急に砕けた口調をするから、スタンドのファンやベンチで見守る選手たちから笑いが起こった。

そこで錫也くんも、ようやく頬を緩ませる。



『本当に、困ったんですよ。僕は近々ある人に自分の思いの丈を伝えてプロポーズをするつもりだったので、完全に出鼻をくじかれました』



さっきまでのざわつきとは比べものにならない。
周囲からは黄色い声や興奮しきった野太い声がわき起こり、球場は一気に歓声と悲鳴に包まれる。

当の本人はというとその後も涼しい表情を崩さず『ですので、みなさんもあの記事は鵜呑みにしないようお願いします』と言ってのけ、ファンたちと同じく興奮を隠しきれない様子のアナウンサーにあっさりマイクを返していた。
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