蜜月は始まらない
本当に──このまま私たち、結婚するの?

結婚……してもいいって、錫也くんはお見合いのときと変わらず思ってくれてるの?

どうしよう。彼のためにこのままじゃいけないって、思ってるのに──……それでも私からは、言い出せない。

錫也くんとの生活が、楽しいって。
頻繁に訪れる胸のドキドキすら、心地良く思えるって。

身の程知らずにもそんなふうに感じている自分が、伝えるべきセリフをいつも飲み込ませてしまうのだ。


考えつつも、透明設置フィルムを慎重に貼って図鑑の背表紙を補強する。

これでとりあえず、手元の補修が必要だった本はすべて作業を終えた。

腕時計を確認してみれば、ちょうど自分の昼休憩に入る時間だ。
図書館は昼も関係なく開放されているので、スタッフは交代でお昼休みをとっている。

たまに他のスタッフと一緒に外へ食べに行くときもあるけれど、節約も兼ね持参したお弁当を休憩室で食べるのがほとんどだ。

私は今朝自分で作ったお弁当を手に、休憩室へと向かった。



「あ、花倉さんお疲れさまでーす」



ノックをしてからドアを開けると、室内には根本さんがいた。

今日は、彼女と休憩時間が重なっていたらしい。
お昼休みは3交代制だ。11時半、12時、12時半スタート1時間の休憩に、2~3人ずつで入っている。

ちなみに今日の自分は11時半からのお昼休みなので、私と根本さんの他に休憩中の人はいない。
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