政略結婚!?箱入り令嬢は俺様社長に愛でられています

 そう言うと、私だけを車内に残して彼はドアを閉めた。

 歩道に残ってひらひらと手を振る婚約者を、私は見つめる。

 まさか、と不安を覚える。

 心を見抜かれたのだろうか。

 覚悟を決めてクリスマスデートに臨んだはずだったのに、私の胸に残った微かな欠片が、飛鳥井さんには見えてしまったのだろうか。

 走り出す車の中で、私は胸に手を当てた。

 そこにはまだ、ほんのわずかに痕が残っている。あの人の唇の感触が消え去ってもなお、記憶にとどめるように、赤い痕はなかなか消えない。

 急いで断ち切らなければならないのに……。

 とめどなく考えているうちに、車は柔らかな電飾の通りを抜け、閑静な住宅街へと滑りこんだ。







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