神様には成れない。



さあっと風が吹き荒れて、彼の髪も乱れる。

乱れた髪から見えた瞳は大きく見開かれていて、輝く瞳が何故だか潤んだように見えた。


「……そっか。なら俺は死んでからも幸せになれるね。よかった」


噛みしめるように溢し、小さく笑う。


「――……」


淵くんの事はよく分からない。でも、最初から人の事がわかるはずもないし、一緒にいても全部わかるわけもない。

死後の話に固執する事の裏には何かあってもおかしくはないけれど、少しずつ知っていければいいと、そう思う。


「さて、と。そろそろ帰らなきゃね。淵くんも明日は一限からの日じゃなかったっけ?」


公園に備え付けられている時計を見上げ立ち上がる。

足元を見れば空き缶が転がっていて、地面に落としたままだった事に今さら気づく。

捨てて帰ろうと手を伸ばそうとした時


「っ……!」


ふと手にまた温もりを感じて驚いてしまう。少しだけ熱く感じるのは気のせいだろうか。

手を掴む主は他でもない淵くんで、振り返れば此方を見上げる瞳と合った。

彼は引き止めるかのように、私の手を掴んでいて、先の言葉の影響では無いけれど引き止めてくれている事実に少しだけ嬉しくなる。

ああ、私と向き合ってくれているのだな。なんて。


「あのさ、瀬戸さん。ならとりあえず、明日大学終わったら迎えに行くからさ……――俺と、デートしてよ」


ぎごちない誘いから始まる恋人未満の関係。

いつかきっと恋人になれる。だなんて誰にも分からないけれど、今はそれでいい。


「――うん。待ってるね」


二人でゆっくり恋を探していくのだ。


「じゃあまた、明日ね。淵くん」

「うん。また明日。瀬戸さん」

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