Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「雨宮さんっ、どうして…。」

 「USBくれるんだろう?君に一階まで往復してもらうより俺が取りに来た方が効率が良いかと思ってね。」

 「USB…そうでした…」

 俯き気味で答えた千紗子は、USBのことなど頭の中から消えていたことを思い出した。

 「どうした?顔色が悪いぞ。具合でも悪くなったのか?」

 「いえ…ただ……」

 どう説明したら良いのか、言葉が詰まってぐっと奥歯を噛みしめる。
 
 (きっと、私の思い込みなのよ…
 今の私と雨宮さんみたいに、仕事関係で同僚がちょっと寄っただけなのかもしれないわ。
 上司の前で、不必要に騒ぎ立てるなんて出来ない……。)

 嫌な予感を振り払うように頭を振った。

 「すみません、何でもないんですが、ちょっと来客中だったみたいで。玄関に女性用の靴が有って…」

 千紗子がそう言うと、雨宮はハッとした顔をした。

 「大丈夫なのか?」

 彼の、窺うような視線から目を逸らして、千紗子はドアノブを握りなおした。

 「大丈夫、ですよ。雨宮さんはここで待っていてください。」

 雨宮の顔を見ずにそう告げた千紗子は、手に力を込める。

 意を決して扉を開けた。


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