Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
混乱したまま、自分の姿を見下ろす。

 身に着けているトレーナ―はブカブカで裾は太ももの真ん中くらいまでしかなく、そこからは真っ白な足が覗いている。
 そしてなにより驚いたのは、自分が見知らぬダブルベッドの上に上司である雨宮といたことだった。

 (これは、いったい、どうして……)

 焦るばかりで何も言葉に出来ない。

 思わず自分の姿から目を逸らした千紗子は、その先にいる人と視線がぶつかった。

 彼は寝起きの瞳をうっすらと開けて、千紗子のことを見ていた。
 眼鏡もなく髪もナチュラルに下したままの彼からは、匂い立つような色気が漂っている。
 
 「もう起きるのか?」

 雨宮はゆっくりと上半身を起こすと、千紗子の方に腕を伸ばし、彼女の髪をそっと優しく撫でた。

 彼に触れられた途端、千紗子の体を電流のようなものが走り抜けた。

 同時に、昨夜の記憶が一気に流れ込む。
 柔らかく癒すようなその触れ方は、ゆうべ幾度も自分の肌に触れた感触と全く同じ。

 悲しみや絶望が大きな波のように、千紗子に押し寄せてきた。

 「わ、わたし…」

 カタカタと体が小刻みに震え出して、体から血の気が引いて体がふらりと傾く。
 ベッドに倒れ込む手前で、千紗子の体を逞しい腕が支えた。

 「今は忘れて。何も考えなくていいんだ。」

 千紗子の体を抱き寄せた雨宮は、彼女の震える背中を撫でながらゆっくりと話す。

 「ここは俺のうちだから大丈夫だ。とりあえずシャワーを浴びておいで。それから朝食にしよう。」

 混乱で何も考えられない千紗子を言い含めるように、一つ一つ丁寧に喋った雨宮は、千紗子の頭を二三度撫でてから、そのてっぺんに「ちゅっ」と口づけを落とした。
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