命の記憶
 桃子のグラスを見ると、飲み物はもう残っていなかった。


 私は自分のアイスティーを一気に飲み干し、帰る準備を始めた。


「あのさ、琴音(ことね)


 その一言で私は手を止めた。


 どうやら桃子にはまだ話すことがあるようだ。


 桃子は続けて話し出す。


「前に琴音の好きな人のこと話してくれたでしょ? 覚えてる?」


「覚えてるよ」


 そう、私には好きな人がいる。


 でもその彼とは通っていた学校が違ったため、桃子は彼のことを知らない。


 中学2年生になる時に私が引っ越して以来一度も会えていない彼の名前を1か月前に桃子に話しただけ。


 そして彼にもう一度会いたくて探しているということも。


「実はその人と同じ名前の人がうちの高校にいるみたいで。来週文化祭があるからよかったら来てみる?」


「っ、いく!」


 少し噛んでしまった。
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