天満つる明けの明星を君に【完】
女を――雛菊のことばかりを考えるわけにもいかず、ちゃんと成果を上げた天満は、気もそぞろになりつつ家に戻り、誰も居ない居間にぽつんと佇んで腕を組んだ。


「おかしいな…やっぱりおかしい」


帰って来るといつも朝餉を作ってくれて出迎えてくれる雛菊の姿はない

訝しんだ天満は、息吹から必ず三食欠かさず食べるようにと言われていたため台所に立ったものの――雛菊の様子を見に行こうと踵を返し、玄関で草履を履こうとして何者かの気配を感じた。

戸を開けると先日文を携えてきた宿屋の使用人がまごまごして立っていたため、天満は表情を引き締めてゆっくり歩み寄った。


「…また雛菊さんは来れないという文ですか?」


「え、ええ…お受け取り下さいませ」


「いいえ、直接会いに行きます。どんなに忙しくても、顔だけは見て行く。そうでないと…僕の気が済まない」


「お、お待ち下さいませ!若旦那様からお通しするなときつく言われておりますので!」


「僕は若旦那に会いたいんじゃなくて、雛菊さんの無事を知りたいだけだ。…僕がその確認をして何かまずいことでも?」


使用人がぎくりとした顔をすると、天満はその顔で何か起こっていると直感が働いて、すたすたと速足で緩やかな坂を下りた。

その際も使用人が追い縋るようにしてついて来たが――天満はとんと空を蹴って風に乗ると、一目散に宿屋を目指して駆けた。


――まだ早朝のため人通りが少ない繁華街だったが、天満の本来優美な美貌があまりにも険しかったため、皆が道を譲ってその背中を見送った。


「入りますよ。僕を止めても無駄です」


駿河から言いつけられていたのか、使用人たちがわらわら群がってきたが――

天満が腰の刀に手を添えると殺気が吹き出し、皆が腰を抜かす中、天満は悠々と階段を上がって最上階の居住区を目指す。


「雛ちゃん…無事でいて…!」


駆け足で階段を上がった。
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