天満つる明けの明星を君に【完】
「あれ、ここ僕の部屋…」

連れ込まれたのは天満の自室で、ものすごい音を立てて襖を閉めた雛菊の勢いについ身体がびくっとなって委縮した。


「もう怒った!」


「え…あ、あの…雛ちゃん…?」


「私に飽きたなら飽きたって言ったらいいじゃない!誰にでも優しさを振りまいちゃって、ああもういらいらする!」


「ご…ごめんなさい…」


あまり意味を分かっていないながらも雛菊があまりにも怒り心頭なため、部屋の中央にぽつんと立っていた天満は思わず正座をして頭を下げた。


「抱けない女なんて要らないっていうこと?女なんて抱いたことないくせに!分かった風でいるのが許せない!」


「え…ち、違うよ雛ちゃん、聞いて…」


「私の前で他の女と親しげに会話して見せつけたりして!傷つかないとでも思った!?私を好きだって言っておきながらいざ抱けなかったから、抱けそうな女に尻尾振ってるんでしょ!?だったら抱けばいいじゃない!ご自由に!私は鬼陸奥に帰らせてもらいますから!」




……ぽかんとすることしかできない天満に詰め寄った雛菊は、ものすごい剣幕で天前の目で仁王立ちになると、激しく見下ろしながら三下り半を突きつけた。



「主さまには感謝してますけど、私は自分の力で宿屋を再開してみせますから天馬様の助けは要りません!ですのでこちらに戻って頂いて構いませんから!とてもお世話になりました!ありがとうございました!」


「ちょ…ちょ、雛ちゃん!待って!待って待って!」


完全に堪忍袋の緒が切れている雛菊には今何を言っても通用しない。

…雛菊の前で女と親しげにしているのを見せつけた結果、焦らせるどころかそれを通り越して三下り半を突きつけられそうになった天満は、背を向けた雛菊の手首を咄嗟に掴んで振り向かせた天満は――


そのまま唇を奪って、雛菊の動きを完全に封じた。


「雛ちゃん…違うんだ。僕の気持ちは変わってない。君の気を引こうとして作戦に出て…ごめんなさい…」


素直に謝ると、雛菊はまだ不満やるせない様子だったが、目をぎらぎらさせながら鼻息を荒くした。


「…じゃあいちから説明してもらいますから。いちから全部ですよ。分かった!?」


「わ、分かりました…」


――完全に、尻の下に敷かれていた。
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