イヤホン越しの恋人。
テレビから幼児向けのアニメが流れていて、お利口さんにトモくんは観ていた。

わたしもメニュー表に目をやる。
ヒロと離れてから食欲もなくて、食事と呼べるものは何も食べていないに等しい程、食欲は減退していたけど、里香の顔を見たからか、"ちょっとは食べたいな“なんて思えている自分に驚きだ。


「食欲は?」
こちらを見ずに里香が零(こぼ)した。

ヒロと離れてから、里香には1番にLINEで連絡してから、なにかと里香は連絡をくれていた。
忙しいはずなのに私の心配までさせて本当に申し訳ないと思う。


「…ちょっとは食べれるようになったで」
美味しそうに並ぶ料理の画像を見ながらこたえると

「今日は食べようや。どれにする?」
里香はグイグイ聞こうとせず、こうやって背中をそっと押してくれる人だ。


トモ君を気にしながら、私にも気を使ってくれる里香に甘えて、私はレストランの宅配に決定した。
「それなら」と、里香と私は日替わりにして、トモ君はお子様プレートと大好きなポテトを頼むことに。

里香が電話でするりするりと連絡先や名前や住所などを伝え、「1時間くらいかかるみたいやわ。紅茶でいい?」と、メニュー表を手際よく掻き集め立ち上がった。


「あ、うん」
と、頷くと
「ちょっと痩せたね」
里香は少し寂しそうに微笑んだ。


ヒロと離れてから体重は3キロほど落ちたけど、それより多分やつれてるんだと思う。
大好きな美容もする気もなれなくて、肌も顔色もコンディションは多分、ううん、最悪に近い。


カウンターの向こうに移動し、壁面収納棚からマグカップを2つ取り出して、体を反転させた。

「ねぇあれどうなったん?」
上の棚から何やら箱を手にした里香。

「ん?」
眉を上げる。

「んぁー!!!」
トモ君が怒ったような声を上げたので目をやると、トモくんは一目散に里香の元へと駆け寄った。

まだアニメは続いてるのに、戸棚の音が聞こえたからそっちのけで母親へと向かったのだろう。

「はいはい。お腹空いたね」
と、里香は箱を置いて、冷蔵庫から子供の用の紙パックジュースにストローを挿した。

満足そうにパックを掴んだトモ君がまたテレビの前へと戻った。

…ほんまによう理解してるな


なんて感心してる私に、
「彼氏がDVって言いふらしたやつ。気になってさ…」
カウンター越しに手を動かす里香。


「あぁ、うん。近所の人に嘘ばっか吹き込まれた」
肩を落とす私に
「ありえんな。ほんま」
里香は眉間にシワを寄せる。

「外面がいいしだれも信じてくれん」
「仲良しの人おったやん?上の階の女の人」
「あぁ、あの人はスピーカーで、情報垂れ流しにするから、あんま言いたくないけど、ヒロがさマンション敷地に来た時に、なにやら言い回ったみたいで」
「そうなんや。でもなんでDVしてることなってるの分かったん?」



コポコポとお湯を注ぐ音が聞こえた。

「隣の人が教えてくれたん。たまたまゴミの日に会った時に申し訳なさそうな感じで言われたねん」
「“かなに暴言吐かれる"って?」
「うん。あと、浮気してて男を連れ込んだとか「ありえん!ありえん」


わたしの声に言葉を被せて、呆れ笑いする里香。


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