三途の川のお茶屋さん
寝室に戻る途中、どうしても衝動を抑えられず、幸子の寝室の扉を薄く開いた。目にした幸子の寝顔に、ほっと安堵の息を吐いた。
誰にだろうが、幸子はやらん。
「……ん? 十夜?」
立ち去ろうと扉を閉めようとしたところで、幸子が寝ぼけ眼を擦りながら俺の名を呼んだ。幸子が呼ぶ俺の名はひどく甘美な響きで、否応なく胸が高鳴った。
「幸子?」
そっと呼び掛けてみれば、幸子の腕が俺に向かって伸ばされた。幸子の腕は、まるで俺を求めるみたいに宙を掻いた。
「幸子どうした?」
気付けば幸子に向かって踏み出していた。
「あ、十夜いた。良かったぁ」
薄く開いた双眸に俺を捉え、幸子が微笑む。