三途の川のお茶屋さん
振り返れば、十夜の柔らかな眼差しがあった。濡れたような黒の奥、紫の煌きに魅せられて縫い付けられたみたいに目が逸らせない。
腕に伝わる十夜の温もりに、胸が切なく締め付けられる。十夜から向けられる微笑みに、労わりに、心が確かな熱を持つ。
私は静かに、立ち上がりかけた腰を下ろした。
「……はい」
この日は私も、十夜も、言葉数は多くなかった。二人静かに、お茶を啜っていた。
けれど十夜といる時に、会話というのは重要ではなかった。会話があっても無くても、そんなのはどうでもよかった。
十夜と会話がない事を気づまりには感じないのだ。
「さて、そろそろ戻るか」
湯呑みが空き、皿が空き、少ししたタイミングで十夜が告げた。
「はい、そろそろ帰りましょう」