三途の川のお茶屋さん


幸子が俺に、心を寄せてくれている!!

幸子の心の吐露に、俺は狂喜乱舞した。

けれど幸子と想いを通じ合わせたはずの今宵も、俺は一人、寝台を温めていた。

幸子と心通わせて、けれどその先の新しい関係には踏み出せない。このジレンマが、俺を内側からジリジリと焼いていくかのようだった。

相愛の歓喜が、同時に焦燥となって俺を苛む。

幸子の心には、悟志に誓った三十年という年月が根底にある。

幸子の心に巣食う、悟志の亡霊が重く俺に圧し掛かる。

悟志という男の亡霊に、俺の想いが負ける気など更々無い。けれど幸子が一歩を踏み出すためには、悟志との決別は必須と思えた。悟志との決別が出来ない限り、幸子は身動きの取りようがない。

あと、十年……。立ちはだかる年月の壁は高く、姿が無い分だけ障壁は強大な脅威だった……。

姿の無い亡霊への尽きぬ嫉妬の炎に、俺はますます胸を焦がしていた。

狂おしいほどに滾る俺の心の内を、幸子は知らない。

「俺は二十年待てた。あと十年? ……待ってやるさ!」

呟きは夜の静寂に溶けた。



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