三途の川のお茶屋さん




「……娘さん、……娘さん?」

ヒタヒタと頬を叩かれながら、私は呼ばれているようだった。

だけどなんだか、思考には靄が掛かったようで、瞼も鉛のように重い。

「これっ、いい加減に起きんさいっ!」

ペチンッ。

「っ!」

頬を強めに叩かれて、ついに私は重たい瞼を開けた。

起き抜けの視界に飛び込んだのは、ムシロの下に隠れギョロリと目元だけ覗かせた、皺枯れた老婆。

「起きたかい?」
「タ! タタタッ、タツ江さっ、ぅぶっ!」


ビタンッ!


「シーッ! これ、声を潜めんかい! 声を!」

容赦のない力で今度は口を手のひらで塞がれた。

正直、かなりの威力だった。けれどお陰で、ぼんやりとしていた意識は鮮明になった。

一番望んだ十夜の顔ではなかったけれど、見知った顔を見て起きられた事が、涙が出るほど嬉しかった。



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