三途の川のお茶屋さん
私に出来る事はただ、あの子の魂の安寧を祈り、願うだけ。
「十夜、人も神も、なんだか歯がゆいですね」
「あぁ、そうだな。けれど幸子、きっと歯がゆくていいんだ。これはきっと万物として根幹の部分、哀愁もなく、何の感慨もなく見送るなだけならば、それは機械の仕事だ」
一見すれば十夜は淡々としていて、何事もクールに熟す。だけど十夜の本質はそうじゃない。熱い血が通い、心が通う、とても深い情を持つ人なのだ。
「私は十夜の志の高さを、とても尊敬しています。そうして一時的とはいえ、この地にあるからには、私も十夜の隣に相応しくありたいです」
「幸子、それは取り越し苦労というものだ。幸子ほどに、死者の魂を悼み、彩を添える者などいない。俺には、そうはいかん。幸子と幸子の茶屋ほど、この地に相応しいものはない」
十夜がそっと、私の肩を抱き寄せる。私は十夜に身を預けた。
「十夜、十夜にそう言ってもらえるなら、私はこの地にある限り『ほほえみ茶屋』を続けます」
「そうか」
肩を抱く十夜の手に、力が篭った。