美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。
第3章2人の食卓

白起の料理

朝起きた後、私は白起に言った。
「食事はどうします?やっぱり料理人がいるのですか?それとも私が作りましょうか?」

すると白起が言った。
「食事は一日一食だ。そして俺が作る。これからはお前もそうしろ。」

私は驚いた。
しかし、白起にも何らかのこだわりがある事を感じた。
そこで、取り敢えずは従う事にした。

「分かりました」

だがそれ以降は大変だった。
白起の食事量はまず、思ったよりもずっと少なかった。
そして信じられない程、まずい。
趙での暮らしは決して裕福なものではなかったが、これよりはましな物を食べていた。

更に一緒に食事を取るようになった感じた事だが、白起の食事の様子は見ていて凄く不愉快なものだった。
白起はそのまずい食事を、一定の速度で機械的に口に放り込む。
まるで機械に油を注入するかのような行為だ。
私はふと自分が過労死する直前の頃を思い出した。
私は元々は食が太く、一日3食の食事は人生の楽しみだった。
しかし、仕事で余裕がなくなると徐々に、食欲が無くなって、最後の頃は一体いつ食事をしたのか思い出せない事も珍しくなかった。
働きすぎで視野が狭くなり、食事という生きるために基本的な行為にさえ注意を払う事が出来なくなっていたのだろう。

白起はきっとあの頃の私と一緒なのだ。
それに母は私の体調を気遣ってくれていただろうから、色々注意もしてくれたはずだ。
しかし、私はその事を全く覚えていない。
多分、私は自分が追い詰められている事にすら気付いていなかった。
追い詰められている人間とはそういうものなのだ。
私は決意した。

そして言った。
「今度からは私が食事を作ります。よろしいですか」

私の言葉を聞いて白起は少し考える様子を見せた。
そして言った。
「駄目だ。人が作った食事など食べられない」

私は食い下がった。
「私が信用できないと言うんですか?」

白起は厳しい目で言った。
「そういうわけではない。だが、食事は駄目だ。」

私はなおも諦めずに白起を説得しようとした。
すると白起は吐き捨てるように言った。
「もうこの話は良いだろ。俺は忙しいんだ」

そして白起は陣営を出て行った。
私は思わず呟いた。

「本当に昔の私にそっくりだな」
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