美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。

温かい時間

私が料理を作った次の日、白起の陣営には料理道具やかまど等が運び込まれた。
私がそれを驚いて見ていると、白起が自慢げに言った。
「これで陣営を出ずに料理が出来るだろう。」

私は呆れた様子で言った。
「そんなに私の料理が気に入ったんですか?」

すると白起は笑顔を浮かべて言った。
「ああ。」

私は白起のこの顔が好きだった。
白起の食事を作るのは骨が折れるし、毎日は面倒だ。
でも、今は比較的暇であるし、私が作らなかったらまたきっと昔の食生活に戻ってしまうだろう。

だから私はもう少しだけ頑張ってみようと思い言った。
「任せて下さい」

すると白起は言った。
「一体お前は何をたくらんでいる?」

私は言葉の意味が分からずに言った。
「どういう意味ですか?」

白起は言った。
「俺はお前と一緒に暮らし始めてから、よく眠れるようになったし、今度は食事を美味しいと感じるようになった。これはいよいよ、お前を解放するわけには行かなくなってしまったな」
私は白起の言葉を聞いて自分が墓穴を掘ったことに気付いた。

私の様子を見て白起は言った。
「無意識か。とことん苦労性だな。俺はまだお前がくれたものに見合うものはやれていないが、お前がどれかで素晴らしい人間であるかは理解しているつもりだぞ」

全く。
理由は全く分からないが、この人は自分の頑張りを理解し、認めてくれる。
そういう人間にであったのはこれが初めてだ。
そこがまた、白起という人間を嫌いになれない理由なのだろう。

結局、墓穴に終わった今回の騒動だが、一つだけ嬉しい事あった。
それは白起が時々、今日の食事の内容について聞いてくる様になったのだ。
下らないことだけど素晴らしい事だ。
それは少しだけ、未来に楽しみを感じる事が出来るようになった証拠なのだから。
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