美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。

大きな手

私と白起はそれから様々な話をした。
「何だか。思ったよりも恐ろしい人じゃなくて安心しました」

すると白起は楽しそうな様子で言った。
「一体、趙の人間は俺の事をどの様な人間だと聞いてるんだ?」

それに対して私は言った。
「凄いですよ。まず身長は人間3人分という話です。それで凄い握力で、頭を握りつぶすそうです。」

白起は言った。
「俺は確かに人より背は高いがさすがに人間3人分は無いな。あと握力は弱いぞ」

私は意外に思って言った。
「握力は弱いんですか?」
「ああ。昔、手を斬られてな。それ以来右手に力が入らなくなった。」

そう言うと白起は私に手を見せた。
白起の手にはくっきりとした傷跡が有った。

「それでどうして戦えるんですか?」

すると白起は言った。
「なぜだろうな。かえって強くなった。刀に余計な力が入らなくなったからかもしれないな」

私はもう一度、白起の手を見た。
白起の手は私のものよりも大きく、力強い印象を受けた。
そして真ん中にはくっきりと傷があった。
私は白起の手に不思議な魅力を感じ、じっと見つめてしまった。

すると白起が照れくさそうに言った。
「そんなに見るものじゃない。多くの人間を殺した手だぞ」

私はそこで、彼が敵国の将軍白起であった事を思い出した。
彼の言葉どおり、この手で多くの人間が殺されたのだ。
その中には私がお世話になった趙の国の人間も多く含まれている。
だけど、私はこの手がそういう悪事を行なった手であるとは思えなかった。
むしろ、傷つきながら大切な物を守ってきた。
そういう手だと感じた。

そこで私は白起に言った。
「いいえ。綺麗な手だと思います」

すると白起は困ったように言った。
「そんな事を言われたのは初めてだ。それにお前の方が綺麗な手をしてるんじゃないのか?」

私は言った。
「そんな事ありませんよ。私はこれまで誰かを守ってきたわけでは有りませんから」

すると白起は嬉しそうな表情で言った。
「謙虚だな。だが欺瞞だ。お前はきっと沢山の人間を守ってきたのだろう。それで居て俺と違って真っ直ぐだからきっと綺麗な手をしているはずだ。そうだな。試しに俺に見せてみろ。」

私は言った。

「嫌です」
「なぜだ。俺の手は見せただろ」
「そんな言い方されるとなんだか恥ずかしくなってきちゃったんです」

それを聞くと白起は笑いだした。

「何だ。男と手をつないだ経験もないのか?」

私は恥ずかしさから白起と目を反らしながら言った。
「そうですよ。悪いですか」

すると白起は落ち着いた口調で言った。
「いいや。良かった。他の男がお前に触れたと思うと反吐が出る。」

私は私を独占しようとする白起の言動を少し不快に感じた。
そして言った。
「あなたには関係のないことでしょ」

すると白起は何かを見透かしたような目で言った。
「ちょっとした軽口だ。気分を損ねたのなら謝ろう。」

「まあいいですよ」
そう言うと私達は話を続けたのだった。

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