美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。
第9章白起と魏冄(過去編)

視察

国王の親戚として信望を集め、将来の宰相として注目される魏冄は若い頃、秦と楚の戦を視察に訪れていた。

「凄いね。壮観だ。」

魏冄が丘の上から様子を眺めて感心していると付き従う文官が言った。
「魏冄様。戦など下々のもののやる事です。こんな所で遊んでいないで、国にお戻り下さい」

魏冄は言った。
「戦が下らないか。戦は確かに好んでやるものじゃない。だが愛すべき民達が命を懸けて戦っているのに、上に立つものが戦に対して無知でいるわけにはいかないだろう」

文官は呆れた様子で言った。
「全く魏冄様は口ばかり達者なのですから手が付けられません」

すると魏冄は何かに気付いたように身を乗り出した。
そして戦場を指差していった。

「おい。あの男は誰だ?戦場で随分と目立っているし、凄い数の人間を殺しているじゃないか」

文官は魏冄に言われて戦場を見た。
そして言った。
「あれですか。あれは白起という者です。見た目からしてこの国の者ではありません。全く異人の欲は恐ろしいですな。いくら人を殺した数だけ褒美が与えられるとはいえ、あそこまで貪欲に人を殺すこともないでしょうに」

すると魏冄は目を輝かせて言った。
「そうか。俺はかっこいいと思うけどな」

そして魏冄は文官に命令をした。
「決めた。この戦が終わったら俺は白起と2人で話をする。準備しておけ」

文官は顔をしかめた。
「正気ですか?一体、あの異人と何を話すつもりなんです?」

魏冄は笑みを浮かべて言った。
「きっと秦の王朝は君みたいな人間ばかりだろうな。だからこそ俺みたいな変わり者が得をするんだ」

そして魏冄は再び食い入るように戦を見つめたのだった。
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