別のお話。

「もうすぐ春の誕生日だよね」

「ああ」

「今年も家で過ごすんですかー?」

その女は、凪は片手をハンドルから離しマイクのようにしてそれを俺に向けてくる。

「そうだな」

「春人さんの春はいつになったらくるんでしょうか?」

女はなんでこう恋愛事にうるさいんだろうか。

「置いてくぞ」

自転車のスピードを少し上げる。

「あ、待ってよー。置いてかれたら愛しの凪ちゃんが泣いちゃうよー」

「愛しくない」

そんなことで凪は泣かない。

分かってる。

分かってるのに、それでも俺は凪のスピードに合わせてしまうんだ。
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