待ち合わせは5分以内に
第1章
朝から降り続いた雨は、お昼になっても一向やむ気配はなくむしろその勢いを強めていく。

大学の構内には、雨の音が響いた。



雨は嫌いだ。


空気はどんより重たいし、湿気で髪はうねるし、
濡れた靴底がたてるあの何とも言えない音も。
何より雨は私の記憶の扉を開けるカギだ。
忘れてしまいたいから、
無かったことにしたいから、
心の奥底に閉じ込めているのに。


閉じ込めて、溢れ出さないように、
しっかりと鍵をかけているのに。

古びた家の天井に雨水が染み出すみたいに、
雨は私の心のごくごく小さな隙間から入り込んでくる。
せっかくしまった記憶を運び出す。









「雨なんて降らなければいい」













もちろん、この先ずっと雨が降らないなんてことはありえないし、もしも実際にそんなことになったらきっと困るだろうとも思う。でも、困ることが分かっていても、どうしても私は雨を好きになれない。







それもこれも全部あの日のせいだ。

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