冷たいキスなら許さない
「本日の責任者はわたくしです。わざわざご丁寧にありがとうございます」

私が責任者を名乗ったことで少し焦ったような顔をした女性は「申し訳ございません。お若い方だったし、あまりにお美しいので勘違いしまして」と慌てて取り繕っている。
新参者のハウスメーカーだし、おまけに私が若い女ってことでなめられたんだろう。

でも、まあ”美しい”ってお世辞でも言ってくれている事だし勘弁してあげようと心の中で苦笑いした。

名刺交換をすると「本日わが社の設計担当も同行しておりますので紹介させてください」と玄関を出て行ってしまった。外で誰かを呼んでいるみたい。
何だか拍子抜けっていうか間が悪い。どうして初めから一緒に入ってこなかったんだろう。

うちのような新規参入メーカーではなくて古参の有名メーカーにしては手際が悪い。それとも単に見下されているだけなのかな。

その間に玄関の物音に背後で様子をうかがっていたらしい休憩中の新人二人も顔を出した。
「本木さん、お客さまですか?」

「他の区画のメーカーの方が新規参入のご挨拶に見えたの。一緒にご挨拶しましょう。名刺は持っている?」
彼女たちに指示していると、足音がして「申し訳ございません」とさっきのスーツの女性が戻ってきた。背後から男性が続いて入ってくる。

うわ、高そうな靴。
視線を男性の足元から顔に上げたところで・・・

時が止まった。

ゼネコン澤村の一級建築士・桐山櫂(きりやま かい)

・・・4年前に私を捨てた元カレだ。

どうしてここに。



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