冷たいキスなら許さない
ようよう仕事を終えてアパートに戻ると急に眠気が襲ってきた。
ーー昨晩しっかりと寝てないから。

定時になり、会議室から出てきた私を見てもうちのよく出来た社員さんたちは午前中に会議室で私が大騒ぎしたことに一切触れることなく。
そこに下北さんの配慮がなされているのは確実なんだろうけど、私は「お疲れさまでした」といつものように挨拶を交わし帰宅することができたのだった。


食べるより寝たい欲求が強くて、メイクを落としすぐにベッドに潜り込んだ。

すぐに眠りの闇に深く吸い込まれていく。

どのくらいの時間がたったのかわからない。
遠くにスマホの着信音が聞こえて徐々に意識が戻ってくる。

ん、誰だろう・・・眠いのに。
枕元のスマホを手に取り画面をぼんやりとした目でようよう確認する。

櫂だ。

「・・・もしもし?」
寝ぼけた状態で鼻にかかったかすれた声しか出てこない。

「ごめん、その声は寝てたんだな。悪い」
スマホの向こうから申し訳なさそうな櫂の声が聞こえる。

「ん、・・・悪いけど、眠いから用件だけにしてもらえる?重要なことならメールもして記録に残して欲しい。覚えてないかもしれないからーー」

「そうか、急ぎの用件じゃないから明日の昼間会社に連絡するよ。寝てるとこ悪かったな」

「うーーんっ、櫂、ごめ・・ね」

急ぎじゃないと聞いてほっとすると、すぐに意識が混濁していく。
ごめんねと言ったつもりだけど、伝わったかな・・・。
私は再び、眠りの闇に飲まれていった。
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