冷たいキスなら許さない
自分の口から思ったより冷静な声が出て安心する。
大丈夫、私もあの頃より成長してる。いろいろな経験を積んで年も重ねて大人になってる。
大丈夫、大丈夫と心の中で何度も唱える。
怖くない、この女性に負けない。

西倉恭香は
「あのっ…」と声を震わせた。
それより先にこちらには確認しなくてはいけないことがある。

「ここで私と出会ったのは偶然ですか?」
そう問えば恭香は目を少し泳がせた。

「まさかとは思いますけど、私が今日ここに来るのを知っていたんですか」
強い調子で問えば、西倉恭香は顔を強張らせる。

「どうしてわかったんですか。・・・まさか私が櫂と会ってたってことも知っていたってことですか」
西倉恭香に対して怒りがこみ上げる。

私の怒りに戸惑っているのか西倉恭香は何も答えず両手で口元を押さえるようにして悲しげな顔をする。
肯定はしていないけど、否定もしない。

どうやって今夜のことを知ったんだろう。
櫂がこの人に自分の予定を明かすとは思えない、ということはやっぱり何らかのストーカー行為で知ったってこと?

「どうやって知ったんですか」
「・・・・」
私の追及に答えはなく黙って私から目をそらしている。

「言えないんですね」
お腹の底から怒りが込み上げる。
怖いなんて感情はどこかに飛んでいた。

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