冷たいキスなら許さない
やっぱり何か悪いものでも食べたんだろうか。
首をかしげると、ため息が降ってきた。

「気分が悪いんですか?一体何を食べてきたんですか」

「ばか、灯里」

わ、ひど。いきなりばかってなに。
不満いっぱいの視線を向けるとまた大きくため息を落とされる。
もう、ホントに意味わかんないから。何だって言うの。

「”社長”じゃなくてーー」
ジトっとした目で見られてやっと気が付いた。

ああ、そっか。
「大和サン」

そう答えたら握られていた手にさらに力が入ったのがわかる。

「ごめんね、大和さん。お帰りなさい。3日も余分に待たされて待ちくたびれちゃった」
唇をつんと尖らせて下から覗き込むように大和さんの顔を見つめると、今度は笑顔が返ってきた。

「おう。待たせて悪かったな」

さっきまでの不機嫌な声はなくなっていつもの大和社長が戻ってきた。
名前で呼ばなかったくらいで不機嫌になるとか・・・子どもか。

つないだ手は大きく温かくて私の望んだ通りのものだったことには大満足だけれど。


思ったほどの渋滞もなく夜の色が濃くなり始めた夕暮れの高速を走らせる。
行きは一人だったこの道も帰りは二人。

「宿題終わった」
ポツリと呟けば、
「そうか」
とひと言返事が戻ってきた。
運転している私には大和さんがどんな表情で返事をしたのかわからない。



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