冷たいキスなら許さない
「話?会いたかっただけじゃなくて?今さら何の話?
もう会ったし、私のことバカにもした。もう満足でしょ?それとも私のことまだバカにしたりない?
あなたは4年前と同じ。私の心を深くえぐる。これ以上私の心を殺そうとするのはやめて」
吐き捨てるように言ってつかまれた櫂の手を強く振り払った。

「櫂のこと忘れたと思ってたけど、思い出したわ。あなたへの恨みと憎しみ」
じわっと涙がにじむ。

「あかり・・・」
櫂は息をのみ棒立ちになっている。

「もうこれ以上言わせないで。これ以上醜い女になりたくない」

私はふすまを開け黙ってゆっくりとそしてぴたっと閉めた。櫂が追ってこないことを祈りながらずんずんと玄関に向かって廊下を進む。
私の気配に気が付いたのか、様子を窺っていたのか、横の長いのれんの奥から女将がそっと姿を現した。

「本木様、今日はよくいらしてくださいました。またのお越しをお待ちしております」

この人、櫂の親戚っていってたよね。
女将と目を合わせられないでいると、
「何があったのかは存じません。でも、櫂が何かあなたにひどいことをしたのだということは想像が付きます。お仕置きは私が代わりにいたしますから。・・・本木様、またぜひおいで下さいね?」
小声で囁かれるが冗談なのか本気なのかもわからない。

私が顔を上げるとぐっと体を折り曲げて深く頭を下げられた。

そんな女将さんにどう接したらいいのかわからない。

「御馳走さまでした。失礼します」ぺこりと頭を下げ、パンプスに足を入れると逃げるように小走りで駐車場に向かった。


ーーー櫂は追ってはこなかった。



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