千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
澪――

神羅――

ふたりの名を見た時、そうだ自分はこのふたりのことをとてもよく知っているはずだ、と何故か思った。

その後すぐ意識を失って、次に目覚めた時は夜になっていた。

全身冷や汗をかいてなんとか起き上がった良夜は、頭痛が小さくなっていることに少しほっとして、昏倒した後も初代が書いた書物をずっと胸に抱いていたらしく、良夜は大きく深呼吸をして目を閉じた。


「俺は真実を知りたい…。美月と出会った時神羅と呼んだこと…神羅が俺を黎と呼んだこと…全てが知りたいんだ。だから乗り越えてみせる」


背筋を正してぱらりと捲ると、こう記されてあった。


『この書物を読んだ者は俺をとんだ大馬鹿者だと思うかもしれない。けれど俺は人の女を愛し、約束を交わし、百鬼夜行を始めるに至った。その経緯を全てここに記す。読み終わった後なお俺の心情に共感してくれるならば、百鬼夜行を引き継いでほしい。未来永劫』


人の女――

愕然として嘘ではないのかと何度も読んだが、確かに人と書いてある。

だが良夜はそれに驚きつつも、黎が執拗と言えるほどに神羅に固執して深く愛していた理由を、ここに見た。


「死に別れる…からか…」


神羅はどこはかとなく、脆く儚く見えた。

それは美月にも言えていたが、美月は生命力に溢れていかにも妖という感じだ。

だがふたりは…同一人物のように顔が瓜二つで、他人とは思えない。


「ここに全てが書いてある…親父はこれのことを言っていたんだな。…ん、これは…」


書物には、何かが挟んであった。

それを見た良夜は驚いて片手で口を覆うと、呟いた。


「これが神羅…そして澪、か…」


ふたりとも、何度も夢に見た顔だ。

鬼のように美しい美貌の女と、鬼には見えない可愛らしい女――

なんだか全ての合点がいった良夜は、再び一度大きく深呼吸をして、行灯に火を燈した。


「教えてもらうぞ、全てを」
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