千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
美月が小言を言っている間に良夜は膝枕にあやかったまますやすや眠ってしまった。

…透明でいて、清らかな印象が強い男だ。

これで妖の長の座に就くというのだから、女たちが黙ってはいないだろう。

そんな男にやたら絡まれるのは気に障ったが――この男は自分に言い寄って来た男たちとは何か違う、と思っていた。


「良夜様、起きて下さい。私は神社へ戻らなくては。待っている者も居ますから」


「……待っている者とは、あの泉に居る得体の知れない奴のことか」


「まだ童です。私以外に姿を見せたことがなく、終始怯えています。ですからどうか…」


「どういった経緯か訊かせてもらおうか」


良夜に手を取られ、指を絡められてどきっとした。

今まで肌に触れられようものならば小刀を振りかざして斬りつけてきたのに、そこまでの怒りは沸いてこない。

むしろ…


「…経緯を話すにはまだお主とはそんなに親しくありませんので」


「じゃあどうやったら親しくなれる?通い詰めればいいのか?」


「ぐ、ぐいぐい来ますね…私そういう殿方はちょっと…」


ちょっと、と言いかけて、そういう男は嫌いではないと何故か思ってしまった。

ぐっと何かを堪えた美月の表情に、良夜はふっと儚い笑みを浮かべて絡めた指をきゅっと握った。


「こっちは最初から通い詰めるつもりでいたからな。お前は…何かが違うんだ。何かはまだ分からないけど、特別な気がする」


「そ…そうですか。私は別に!お主には何も感じていませんが!」


「そうか、じゃあその気にさせられるよう努力する。もう少し寝るからじっとしていてくれ」


目を閉じた良夜の髪を、なんとなく撫でてみた。

さらさらの感触が心地よくて、何度も何度も撫でてしまい、その度に良夜の眠りが深くなって、ずっと撫で続けた。
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