君に心を奪われて



「えっ……」


私は担任の山本先生の前に立ち尽くして絶句していた。


「お願い出来るかな?」


「……」


頼まれたのは体育祭についての感想文。これが学年便りに載るらしい。どうしよう……。


せっかく頼まれたからやるしかないのか、と思って私は頷いた。


「本当にいい?」


「はい、やります……」


「ありがとう!」


ここ最近の山本先生が優しいのは、松山さんの影響だと噂で聞いている。まぁ、そこは関係無いか。


給食を食べてグラウンドに向かう。もう応援席のところには翼が居た。


「花菜」


「翼……」


文章といい、翼といい、問題は山ほどある。どうすれすれいいのかわからない。


「花菜、なんかあった?」


「いや……感想文頼まれちゃって」


「ああ、あれか……。頑張れよ」


「うん!」


翼に頭を撫でてもらった。すごく嬉しいな。


次は応援合戦。私達の白軍が一番目に行われる。


緊張する……上手く踊れるかな……。


「辛くても、立ち上がれ白軍~♪」


心臓がバクバクする。だって、いつもいじめてくるヤツも見ているから笑われないか不安だ。


いつもの練習通りにやっていると、私達の番は終わっていた。


他の軍を見て、私達は敗北感を感じていた。紅軍があまりにもスゴかったから。


次は全校競技である大玉送りだった。


翼と副団長さんが手を繋いで走っているところ見て羨ましいと思った。


こんな私が君と触れ合うなんてあり得ないよね。



――誰だ……。



あの雨の日からずっと一緒に居たけど、本当にそれでいいのかな。


私は翼の隣に居ていいのかな……?


大玉が私の手には触れずに後ろへ飛んで行く。翼は他の応援リーダーと笑い合っていた。


点数版を見ると、白軍の点数はかなり低い。綱引きのダメージがかなり大きかったようだ。


もう最後の選抜リレーになってしまった。翼も最後だから一生懸命に応援している。


終わらないで、この体育祭がこのまま続いて……。


最後の種目も終わってしまった。急に寂しさを押し寄せてきた。


白軍は応援で三位だった。何も賞状をもらえない黄軍よりはマシだった。


負けちゃったけど、楽しい体育祭だったなぁ。そう思いながら、全校で校歌を歌う。


「解団式を行ってください」


そんなアナウンスが聞こえて、また悲しさが増してくる。翼と離ればなれは嫌だよ……。



ずっとこのままがいいのに……。



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