君に心を奪われて



「加藤!これが分かるか?」


また先生に当てられた。もうこれで何回目だろうか。


なぜだかわからないが、花菜と一緒に居るようになってから男性教師に当てられることが多くなった。


花菜って、教師の中では密かにモテてたんだな……。


当てられると同時に底知れぬ敗北感と嫉妬心で胸がいっぱいだった。


先生達は結婚してるのに生徒に恋焦がれるなんてアホじゃねぇか?


教務室に用があって行こうと部屋の前に来ていた。


「花菜って可愛いよな……」


「俺は栞奈がいいな」


教師のクセに堂々と恋バナしてんじゃねぇよ。しかも、花菜と栞奈って何なんだよ。まず、栞奈って誰?


「栞奈って、リストカットした子でしょ?でも今は、篠原先生といい感じなんだっけ?」


「そうなんだよ。妻が居るから諦めてるけど、やっぱり好きなんだよな……」


栞奈って子はかなり深刻な子なんだろうな。先生と結ばれそうなら、俺にもまだ可能性があったりとか……。


「花菜さんも可愛いよね。素直で純粋だけど、笑わなくなったよね?」


「でも今はめちゃくちゃ笑ってるよ。……加藤翼という三年二組の男子のせいで」


先生酷っ!!俺を悪者みたいな言い方すんじゃねぇよ!


「マジかよ!あの純粋な子が男のモノになるなんて……」


「まだ結ばれてないから希望はある!」


先生……貴方達に希望は無いと思いますよ?だって、大切な家族が出来てる時点で花菜とは仲良くなれないでしょ?


「お前ら!気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ!!」


音楽科の鬼教師で噂の飯野先生が教務室で怒鳴った。なんかスカッとする。


「生徒が誰と結ばれたっていいじゃないか!……本村さんを取られるのは嫌だけど」


アンタも花菜の虜かよ!マジで腹立ってくる。ここの教師はアホしか居ねぇのかよ!


教務室は行きにくいからやめておこう。さっき噂してたヤツが来たら驚くだろうからな。


そう思って、踵を返そうとした時だった。


「翼!」


花菜本人がここで登場。教務室に居る先生達は一斉にこちらを見た。マズイ予感がする……。


「翼、教務室の前でどうかしたの?」


「いや……何も無いよ」


「そうなんだ!」


彼女はニコッと微笑む。教務室から痛い目線が突き刺さる。


「花菜……」


「何?」


花菜は何も気にしてない様子だが、俺にはヤバいほど痛い目線が突き刺さってくる。もう勘弁してくれよ。


「今日も勉強教えてくれる?」


花菜、今そんなこと聞いたら……。


教務室は嫉妬心と怒りで包まれていた。俺だけ恐ろしいほど痛い視線が降り注ぐ。止めて……!


「うん、帰りにな。じゃあ……」


「じゃあね!」


花菜は眩しい笑顔で去って行く。俺も急いでその場から逃げた。


先生、怖いですよ……何で俺だけが狙われるんですか?


「加藤!」


「はい!」


当てられるのもいい加減にして欲しい気分だった。




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