君に心を奪われて


今日、下駄箱に手紙が入っていた。教室でその内容を見ることにした。


『昼休み。会おう』


翼ならこんな遠回しに約束を持ち掛ける訳がない。きっと、このいじめの張本人だと考えられる。


私はとりあえず、風間くんに相談してみることにした。


「行ってみたら?犯人の顔と名前を覚えていれば、先生に報告出来たりするからね」


先生に言えば、静かに物事を解決してくれるはず。でも、その先生の性格によるからやめておこう。


とりあえず、私は会ってみることにした。犯人の顔と名前をこの頭に焼き付けておきたいから。






昼休み、手紙に書かれた通りに私は屋上の前に居た。


この屋上はみんなが普段使う場所ではないところ。物がたくさん置かれていて、不気味なくらい静かだった。


「お待たせ、花菜ちゃん」


目の前には先輩だと思われる女子生徒が居た。その優しそうな笑顔に私は肩を震わせた。


「初めまして。私は藤田茜。翼と同い年で幼なじみよ」


やっぱり、先輩だったのか。翼と幼なじみだと主張するとは、嫌な予感しかしない。


「何で……アンタみたいなブス女が翼の彼女なの……?」


そう言えば、私は何で翼に選んでもらえたんだろう。私はどうせ片想いなるだけだと思ってたのに、並行線があの秘密基地で交わってしまったんだ。私は彼の秘密基地を知っているだけだったはずなのに、どうしてこんなにも仲良くなれたんだろう。


「何でなのよ……!!」


先輩はそう叫び、私のお腹を蹴った。私は痛みでその場に踞る。


「ずっと、あの子と居られると思ってたのに……全部、お前のせいなんだよ!!」


私は頭を殴られた。これが本当のいじめなんだと知った。


あの時、陰口を言われて死のうとした私が馬鹿みたい。死ぬべき時は、こうされた時なんだよ。


怒り狂った茜先輩は、私の体を数回蹴り、どこかへ去って行った。私はずっとその場に踞っていた。


急に涙がポロポロと溢れ出してきた。本当のいじめはあんなにも恐ろしいものだって思い知らされた。


いや、本当に思い知らされたのは、彼女の強い想いだった。彼女が翼を愛していたのがはっきりと分かった。


私は立ち上がり、ふらつく足でなんとか階段を降りようとした。身体中が痛い。心も痛かった。


「本村さん!」


彼はこうなると予想してくれたのか、隠れて待っていてくれたらしい。


「保健室行こうか」


「うん……」


この痛みはどうしても耐えられない。ただ、翼に見られないことを祈るだけだ。


「花菜!どうしたんだ!」


名前を呼ばれてビクッとすると、先輩ではなくて副担任の新川先生だった。


「保健室まで連れて行くよ」


新川先生も肩を貸してくれた。三人で歩いて、やっと保健室に着いた。保健室の先生も私のボロボロな姿に驚いているみたいだった。


「どうしたの?本村さん、こんなにアザと傷が出来ちゃって……」


内容は言っていいか分からない。風間くんが「言いなよ」と背中を押してくれた。


「最近、いじめられているんです。先輩に……」


言わなくても分かったのだろうか、みんなは静かに黙っている。翼と付き合って、翼が好きな先輩から反感を買って出来てしまったいじめなのだから。


「そいつの名前は……?」


「藤田茜先輩です……」


さっきの光景がフラッシュバックし、恐怖で身体が震える。茜先輩の顔が恐ろしかった。


「加藤先輩には言ってないの?」と、風間くんが聞いてきた。私は首を横に振った。


「……本村さん、今日は帰って休んだ方がいいよ。お母さんに連絡するから待っててね」


保健室の先生は電話機があるところに向かって行った。


「本村さん、少し楽になったら教えてくれる?」


私はただ頷いた。声を出す気力も私には残っていなかった。




翼……助けて……。



本当は君に会いたいけど、先に帰るね。



素直じゃなくて、ごめんね。




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